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2009年7月25日
小説 「花火の後」1
「今度の土曜日だけは休ませてな」
その日は、一年に一度の夏のお祭り、待ちに待った天神祭だった。
別に待っているわけではないのかも知れない。いつも父に連れて行ってもらった祭りだから毎年行っているだけ。そして、何よりあの花火を見ることが一年の安らぎでもある。
「おお、そやったなぁ。わかったわかった」
マスターは、わかってくれる人だった。
この店に勤めるようになってから10年がたつ。
夫を亡くしてから、必死で水商売をしてきた。
それも息子のため、いや孫のためなんだ、と優子は思っていた。
孫のゆうきが生まれてからは4年がたっていた。
あやが嫁にきてから5年。息子が浮気して、ほかの女と出て行ってからは3年だ。
思えばこの5年は忙しすぎた。この数年が、私の人生の試練にも思えた。
普段はゆっくりビールを飲む時間もなく(もちろん、夜は仕事でたらふく酒を飲むのだがまったくよった気がしない)、ゆっくり眠る暇もない。
あやは嫁にきてからがんばってくれている。ゆうきを育てる姿もそうだが、何より私の仕事を応援してくれるのだ。
女の人が来る店ではないから、あやはさすがに営業中にはくることがないが、ママにも顔がしられているから、閉店後にはちょくちょく顔を出してくれた。
そのためか、私の寂しさも紛らわすことができた。
毎年、行っている天神祭だが、ゆうきと行くのは初めてになる。こうなりゃ、ゆうきに最高の花火を見せてやりたい。そう、優子は強く思った。
現地に着くと、最適な地点はすでに人に埋め尽くされていた。
ブルーシートで自分の陣地をうまく確保している。
ゆうきと一緒についたころにはすでにほとんどの場所が埋め尽くされていた。
ただ、優子の目には、まだ若干の隙があるように思えた。
あやかと、その友達のりえがマクドナルドで食料を調達する間に、私は場所を確保しようと思った。
ま、ここならいいだろう。少し強引かとも思ったが、始まりつつある花火を目の前にし、ここ以外に確保する場所はない。
ゆうきと一緒に、もうすでに場所を確保している人たちの本の隙間に腰を下ろした。
なぜだか、周りの目が突き刺さる。でも、優子はそんなことは気にしなかった。
あやかが現地に着いたのは30分ぐらいたった後だった。
「おそかったやん」
「ごめん、ごめん。やっぱりすごい人がいた」
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この話はフィクションであるが、実話を元にしている。
つづく。
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