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2010年4月 7日

[小説] 午前0時の環状線(2)

アニキはちゃんと働いていた。

まさか、同じ大阪に出てきているとは思わなかったし、生きているとも思わなかった。

大阪ビジネスパーク。契約社員としてセールスをやっているらしい。

僕が知っているアニキの姿は、アニキが結婚したときから記憶がない。

だから、かれこれ10年前のことだ。

「久しぶりだな」

でも、その間になにがあったかなんて、知りたくても聞く勇気はなかった。

きっと、アニキも同じ気持ちだったかもしれない。

それで、どこかしらそっけないのだ。

もちろん、あの日、今日のように鮮明に覚えている泥酔リーマンとして見たことも話せなかった。

「元気そうだな」

僕は、相変わらず、自分を変えられずにいた。

そんな自分が嫌いだった。

アニキの言葉は優しさだったんだと思う。


しばらくたって、アニキはタバコを取り出し、丁寧に火をつけた。

パーラメント。

グラスに残っていた半分近くのビールを飲み干し、店員に、お互いのお代わりを注文する。

時は過ぎる。

多分、ずいぶん飲んでいたんだと思う。

何気ない世間話しかしてなかったと思う。

僕の記憶はそれだけしかない。

ただ、今確かに、思い出せるのは、これがアニキとの正式な再会であった。

このまま、アニキとの間に埋められた溝を埋められたらいいと思っていた。

それが後になってこんな感情になるとは思わなかった。

「あ、あのさ」

何回か会うようになってから、アニキが怖い顔をして口を開いた。

コメント(2)

アニキはこれから何をしでかすんや!?

午前零時の交差点で何をしでかすんや!?

これからアニキは何をしでかすんや!?

午前零時の交差点で何をしでかすんや!?

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このページは、マス風が2010年4月 7日 01:28に書いたブログ記事です。

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