[小説] 午前0時の環状線(3)

[小説] 午前0時の環状線(1)
[小説] 午前0時の環状線(2)

「俺は、人を一人殺している」

僕は信じられなかった。

アニキは、どうやらあのスリ師を殺したというのだ。

僕が乗り換えのために降りた大阪駅、

アニキと、そのスリ師は、

同じ電車にのって環状線を回っていた。

そこで何が起きたんだろう。

「俺は出頭するべきかな」

アニキは続ける。

僕はいっさい口を開くことが出来なくなる。

しかし、僕はまだアニキを信じている。

それは、ニュースでそういった報道がされていなかったからだ。

たぶん何かの冗談なんだ。

「お代わりでいいよね」

僕は、アニキの空っぽになったグラスを見て話を変えた。

いつもの店員に合図する。

「お前、あの男を見ているだろ?」

「え?」

アニキが何が言いたいのか分からなかった。

「どういうこと?」

僕はそう確認するしかなかった。

店員がお代わりのビールを持ってきたときにアニキが口を開いた。

どうやら、あの泥酔リーマンとして見た時、

アニキは僕に気づいて、必死で気づかないふりをしていたという。

僕は青ざめてしまい、また口を開くことができなくなってしまった。

もしかして、アニキは本当のことを言っているのかもしれない。

そんな予感が頭をよぎった。

「ちょっと、トイレいってくる」

僕は吐いた。今まで飲んでいたビールよりも多くの何かを吐き出した。

急に気持ちが悪くなってきたのもあったけど、

今というこの時間を、アルコールなしで考えたかった。

アニキが人を殺すはずなんてない。

何かの間違いに違いない。

とにかく、出直そう。

「大丈夫か?青ざめているぞ」

アニキがわざとらしく声をかけた。

「また今度会えないかな?なんか今はうまく話が出来ないと思う」

アニキはうなずいた。

僕らは店を出ると、既に新聞配達員がうろうろしていた。

朝が近そうだ。

早く一眠りして、一回頭を切り替えよう。

僕はそう思ったが、結局朝まで寝付くことが出来なかった。

体は疲れているのは分かっていたが、脳が完全に興奮しているのが分かった。

気づくと、すぐに仕事へ向かう時間が近づいていた。

重い体を動かし、準備を始める。

しかし、僕はその日、結局会社に行くことが出来なかった。